【レポート】カンボジア現地視察(スタディツアー)報告

©神奈川県ユニセフ協会 (ユニセフ・カンボジア事務所の皆さんと)

2023年11月13日~18日までの間、第4次指定募金「カンボジアにおける『暴力と虐待からの子どもの保護』プログラム」について、現地視察を実施しました。

主な視察地:プノンペン、バッタンバン州、シアムリアップ州

目的: カンボジア政府の子どもの保護制度が、地方自治体レベルでどのように機能しているか、また、家庭、学校、コミュニティにける子どもへの暴力をなくすためのユニセフの活動が、子どもたちをどのように支援しているかを理解する。

 

 

 

11月13日(月)AM/ユニセフ・カンボジア事務所

©神奈川県ユニセフ協会(中央:カンボジア事務所代表のウィルパック博士)

ユニセフ・カンボジア事務所で、代表のウィルパック博士による今回のプロジェクトの概要についてご説明いただきました。カンボジア政府は多くの子どもが学校に行けるよう支援しているが、教育の質についてはまだまだ問題があるとのことです。子どもたちが暴力にあわなければ本来子どもたちが持っている可能性が生かせるなどの内容です。

カンボジアでは児童婚も問題となっており、以前より減ったとはいえ、ラオス、フィリピンだけでなく東南アジア全体でこのような事象が大きな問題となっているようです。

 

 

 

11月14日(火)AM/マウン・ルセー郡トゥール・プロムコミューン、コルクス村

【ポジティブ子育て法研修会(レベル1)】:この日はコルクス村を訪問し、州女性局(PDoWA)が実施する「ポジティブ子育て法」を視察しました。

©神奈川県ユニセフ協会(ポジティブ子育て法の学習会風景)

当日は、村の保護者の皆さんを集めて暴力のないしつけを目標に「ポジティブ子育て法の」学習会を開催していました。ほとんどは村の子育て中の女性たちを含む女性の参加が目立ちましたが、中には男性や若い(中高校生くらいの)女性の姿も見られました。講師の先生からはお母さんの義務として「子どもを叱っていませんか?」「ぶったりしていませんか?」「子どもの話しを聞いていますか?」などの問いかけをしていました。また、若い女性(子ども)に対しては「お母さんの手伝いをしていますか?」の問いかけに対し「家事、草むしりをしています。」「お金が無いので学校辞めたい」「お父さんいない」などの会話のやり取りが耳に入りました。

 

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©神奈川県ユニセフ協会(左:講師のパウソンポアさん / 右:コミューン議員のトサウディさん)

今回、講師をしていたのはパウソンポアさん。今回が初めての講師だったのですが、話しかけも上手で、参加した皆さんも熱心に話を聞いていた姿が印象的でした。子育て教育法の研修はコロナ過の影響で満足な研修を受けることができない時期もあったそうです。それでもオンラインでの研修も試みたそうですが、通信状況の不調や停電の影響で満足な研修を受講できない時期が続いたそうです。パウソンポアさんも実は研修の受講経験なしで本番に挑んだ講師の一人です。「機会があれば改めて満足のいく研修を受けたい!」と懇願されていました。

 

 

 

 

11月14日(火)PM/プレイ・タッチコミューン、コン・クロン小学校を訪問

©神奈川県ユニセフ協会(1年生の授業風景)

【教員がポジティブ生徒指導法の研修を受けた実践校】:コン・クロン小学校を訪問。1年生と6年生の授業視察後に、教師の皆さんとの懇談、児童会の皆さんとの懇談を行ないました。学校に到着したときには先生・児童の皆さんが校門の前で1列に整列し、歓迎していただきました。今回、募金にご協力いただいた日本の皆さんへの感謝の現れと受け止め、大変感激しました。

1年生の教室では国語の授業。29人の生徒が日本では「パピプペポ」にあたる破裂音の練習をしていました。児童は皆裸足で授業に参加し元気よく「パピプペポの歌?」を歌っていたのが印象的です。カンボジアのことば「クメール語」は難しく、1~3年生は読むだけ。4年生になると書くことが加わり、授業について行けず退学せざるを得ない子どももいるようです。6年生の教室では時間の計算の授業。カンボジアの教科書は(日本のような)教科書検定は無く、全国統一の教科書を使用しているそうです。

この地域は世帯のほとんどが農家の家庭。コロナの影響もあり1~3年生のクメール語の理解の遅れが課題になっているそうです。校長のペッチ・サルーンさんによると、この間の取組みで退学率は1%に減った(退学理由は保護者の移住や、僧侶になった子ども)とのことで、退学理由にも変化が現れたそうです。

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■先生の皆さんとの懇談では、以前は生徒が自分たちを怖がっていたが、ポジティブ生徒指導法を受けることによって子どもとの関係が親密になり、父母のような関係を築けるようになった。また、子どもたちも質問をしてくるようになったので、子どもたちの理解も早くなったとおっしゃっていました。また、ほめる回数が増えた(今まではほめることはなかった)、ほめることによって成長が実感できるなど、ほめ方にも変化が現れたとのことです。今でも怒りが全く消えているわけではないのですが、その時は仏教のことばを思い出す、子どもたちに考えさせる機会を作る、家庭内でも実践してみるなど、怒りに対する工夫もされているようです。

 

■児童会メンバー(4~6年生)との懇談では、リーダーのサンチョビーさんをはじめ、メンバーの皆さんからお話を伺うことができました。児童会のお仕事は教室の掃除、校則を守るように指導、役割分担を決める仕事、先生の手伝い、登下校の管理、倫理規定の見張りなどがあるそうですが、何よりも他の子どもたちの見本になる行動をすることが大事だそうです。「学校は楽しい?」と質問すると、全員が揃って元気よく「はい!」と答えていました。人気の授業は国語(クメール語)、算数、社会、理科。勉強しているときが一番楽しいと答えている生徒が多かったのも印象的です。家に帰ったら塾、家の手伝い、ホームワーク、炊事、掃除。将来の夢は先生、医者、警察、軍人という意見が多かったです。昔は先生たちすごく怖い存在で、叩かれたり怒鳴られたりしたのですが、今では皆、先生や学校が好きだと言っていました。

 

11月15日(水)AM/僧侶による子どもの保護バゴダ(僧院)の中心人物を訪問(バッタンバン市内)

©神奈川県ユニセフ協会(宗教省副大臣のご挨拶と僧侶の皆さんとの懇談)

【宗教指導者の取り組み】:90%以上が仏教を信仰しているカンボジアでは、僧侶は地域社会における重要な指導者であり、長年にわたり精神的・物理的な支援を含め、多くの教育や支援サービスを地域住民に提供してきました。カンボジアには5,104のバゴダ(僧院)があり、70,905人の僧侶がモハーニカイ派とトアンマユット派との2つに分かれています。僧侶の70%(49,452人)は子どもだということです。

この日は宗教省の副大臣や僧侶の皆さんと面談しました。彼らは子どもに対する暴力追放のメッセン ジャーであり、仏教の教えをもって心の安全を図り、カンボジア全土にワークショップや会合、セミナーを開催し、暴力を防止する取り組みを行なっています。2023年10月現在、187人の国内トレーナーが子どもの保護に関する研修を受け、研修を受けたトレーナーたちは1,131人のパゴダの僧侶に研修を実施し、コミュニティやパゴダで子どもへの暴力を予防するための僧侶コミュニティの啓発活動を行い、現在76,800人(僧侶12,955人、信徒63,845人)が啓発活動に参加しているとのことです。また、宗教省の働きかけによって仏教・イスラム教・キリスト教の対立もなくなったようです。

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©神奈川県ユニセフ協会

啓発活動の教材の絵本冊子を見せていただきました。この絵本冊子を市民に配布し、冊子の中でわかりやすく暴力防止を訴えています。カンボジアに限らずどの地域でも「暴力は暴力の負の連鎖を生む」ことは共通で、この冊子には父親が母親に暴力をふるうと暴力を受けた母親は息子に暴力をふるい、親から暴力を受けた息子は妹に暴力、そして妹は飼い犬に暴力をふるうという負の連鎖を説いていました。

貧困や暴力などの問題を抱えている家庭の子どもは、お寺に逃げ込み僧侶になる子どもたちも多いそうです。ただ、僧侶になれるのは男の子だけ。同じような問題を抱える女の子たちは逃げ場所が無いのも現状です。

寺院で配布された冊子:家庭内で暴力に苦しんでいた子どもが、仏教の世界に入り、やがて立派な僧侶になり市民に暴力防止を説く物語。本の中では暴力の負の連鎖について説かれています。

 

 

11月15日(水)PM/カリヤン・ミット、ライフ・スキル・センター/未来オフィス

【子ども保護やその家族への取り組み】:社会から疎外された子どもや若者、その家族への子どもの保護に関する社会サービスを支援するためのカリヤン・ミス・プログラム(2005年NGOフレンド・インターナショナルがシアムリアップに設立)の未来オフィスを訪問しました。このプログラムでは、年間7,450人の子ども、若者、その家族に直接サービスを提供する一方、さらに6,039人の子ども、若者、家族を間接的に支援しています。提供している社会サービスは「命を救う」、「未来を築く」、「子どもの安全を守る」という3つの分野に分類されています。そのうち訪問したのは「未来を築く」プログラムで、以下の雇用サービスを通じて青少年と保護者が雇用にアクセスできることを目的として以下のような支援している施設です。

・個別進路指導とカウンセリング

・対人スキルを教える「ソフトスキル」トレーニングクラス

・必要に応じて、クメール語の識字、数字、英語の追加トレーニング

・職業訓練および/または自立生活への移行を目指す青少年のためのカリヤン・ミス・グループホームでの一時的な滞在と、必要に応じたその他の心理社会的支援

・職業斡旋や起業支援、農業や養鶏を含む「サバイバル」ビジネスへの支援も強化。

©神奈川県ユニセフ協会(模擬美容院で職業訓練をしているようす)

©神奈川県ユニセフ協会(模擬レストランで職業訓練をしているようす)

 

11月16日(木)AM/シアムリアップ、プオック郡、トレイ・ノー・コミューン、タホック村

©神奈川県ユニセフ協会(村での研修のようす)

ポジティブ子育て法には3つのツールキットがあります。レベル1は「すべての保護者を対象」としています(11月14日(火)AMに視察したマウン・ルセー郡トゥール・プロムコミューン、コルクス村の学習会)。レベル2は「子どもたちが暴力や不必要な家庭内別居の特別な危険にさらされている弱い立場の親や保護者を対象」としています。そしてレベル3は「子どもが暴力や不必要な家庭内別居を経験した弱い立場の保護者に支援を提供するソーシャルワーカーを対象」としています。

 

 

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【ポジティブ子育て法研修会(レベル2)】:この日視察に訪れたのはレベル2にあたる「子どもたちが暴力や不必要な家庭内別居の特別な危険にさらされている弱い立場の親や保護者を対象」とした学習会です。弱い立場に暮らす子どもたちを見つけるのはとても簡単で、家を見ればすぐわかるそうです。例えば朝から酔っ払った親がいる、ギャンブルにふけっている大人がいる、学校に行かずウロウロしている子どもがいる家庭は、レベル2にあたるそうです。このシムリアップでのプログラムの課題として挙げられている「男性の参加者の少なさ(参加率2%)」にあるとおり、この日の男性参加者はいませんでした。男性は参加する気が無いわけではなく、そもそも父親がいない家庭だったり、いても父親が出稼ぎに出ていたり、物理的に参加できない事情があることもわかりました。

©神奈川県ユニセフ協会(研修後の保護者の皆さんとの懇談)

研修では、ファシリテーターからは「子どもを叱るとき落ち着いてやさしい言葉で!」「『〇〇分間勉強したら』というようなルールをつくりましょう。但し、大人が約束を破ったらダメ」との説明。何回か研修を終えた保護者からは「今は子どもが帰ってきたら、子どもから『帰ってきたよ!』と言えるようになった」「家族で一緒にご飯を食べるようになった」「自分が子どもにやさしくすると子どもも返してくれる」「家庭内暴力を振われた親は子どもにも暴力をふるう」などの会話を耳にすることができました。

研修後には、父親のいない家庭や障害のある子供をもつ家庭の保護者など、様々な問題を抱えている方々と懇談をさせていただきました。皆さん、家庭の事情は違いますが、研修を終えて「暴力を振るうのをやめた」「子どもを褒めるようになった」「学校の成績が悪いと怒っていたが、それをやめるようになった」などの変化が現れるようになったそうです。

皆さん研修に参加するのは楽しいとのこと。家庭に問題があるにも関わらず、笑顔で接していただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです。

 

11月16日(木)PM/シアムリアップ、プオック郡、プレイ・チュローク・コミューン、プレイ・チュローク小学校

©神奈川県ユニセフ協会(3年生の教室では国語(クメール語)の授業を行なっていました。)

【教員がポジティブ生徒指導法の研修を受けた実践校】:2023年初頭よりポジティブ生徒指導法を導入している、プレイ・チュローク小学校を訪問。3年生の授業視察後に、教師の皆さんとの懇談、児童の皆さんとの懇談を行ないました。

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■先生との懇談ではルーエン・カーン校長より、今まではネガティブな教育を続けてきたけれど、この教育法を知って指導法がすっかり変わった。今では外部からの来訪者にもポジティブ教育法を進めているそうです。当初、保護者からは子どもを殴って指導してほしいとの要望が多かったが、今は変化してきている。いまだに体罰を希望している保護者には丁寧に説得している。また、以前は保護者からの子どもの相談がなかったが、今では相談を受けるように変化してきたそうです。また、教師の皆さんへこの間の変化を伺うと、前の担任が厳しかったため、当初は子どもになめられてしまうという悩みがあったのですが、それには、先生と子どもたちが一緒に方針をつくる取組みやアンガーマネジメントの手法が役に立ったそうです。また、子どもたちの変化としては、以前は皆先生を怖がっていたが、今では子どもたちから質問をしてくれるようになった。積極的に授業に参加し、授業中に手を挙げるようになった。「わかった?」と尋ねると「わからなかった」と返してくれるようになった。など様々な変化が見えるようになったそうです。

©神奈川県ユニセフ協会(先生との懇談風景)

■子どもたち(5年生・10人)との懇談では、全員が学校は楽しいと回答していました。午後の授業にもかかわらず、朝から登校し勉強している子も多く見られました。学校が好きな理由としては、環境が好き、先生が一生懸命に教えてくれる、学校がきれいとのことでした。大人になったら先生、警察、軍人になりたいそうです。父親は皆、タイやプノンペン、シアムリアップなどに出稼ぎに行っており、母親もタイやプノンペンに出稼ぎ、両親ともに一緒に暮らしていない子もいました。お金がないことも誰にも言えず、それでも皆さん明るくふるまっている姿が印象的でした。

 

【まとめ】

©神奈川県ユニセフ協会(ユニセフ・シアムリアップ・フィールドオフィス前にて)

今回のプロジェクトの活動にご協力いただいた皆さんに改めて感謝します。

カンボジアの居住形態や地域のつながりで感じたことは、日本の家屋は個人情報やプライバシーは守られますが、閉鎖的で家族の問題(暴力や虐待・貧困)が見えづらい環境にあるかもしれません。カンボジアでは問題のある家庭は家を見るだけで簡単にわかるそうです(朝から酔っ払っている親がいる家庭、ギャンブルにふけっている家庭、学校に行っていない子どもが外で歩いているなど)。日本でも暴力やいじめ貧困などの問題がありますが、なかなか明るみにされない実態があります。日本の家庭問題についても心を馳せる研修となりました。

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