【カンボジア指定募金】第4期報告書:ご支援による成果(2023)

皆様のご支援による成果(2023)

2023年までに皆様からお寄せいただいた「暴力と虐待からカンボジアの子どもたちを守る」指定募金により、2023年には以下のことが実施できました。

活動 1:ポジティブ生徒指導法と効果的なクラス運営に関する教員研修

プロジェクト開始以来、対象となった6つの州から合計2,396人の教師が研修を受け(以下の表を参照)、75,193人の生徒が恩恵を受け、プログラム全体の目標である教師1,500人、生徒50,000人以上の大きな成果達成となりました。これは、2022年以降、ポジティブ生徒指導法を対面とオンラインのハイブリッド式で展開する新しい手順を導入したことにより可能となりました。
報告期間中、ユニセフと教育・青年・スポーツ省(MoEYS)は、シエムリアップの2つの地区にある75の小学校の合計729人の小学校教員(女性481人、男性248人)を研修することが決まりました。この研修がオンラインでも対面でも多くの教員に行き渡った結果、2023年にはシエムリアップだけでさらに19,637人の子どもたち(女子は9,633人)が間接的にこのプログラムの恩恵を受けることができました。この研修の目的は、教師が効果的に教室を運営し、喧嘩を非暴力的に解決し、生徒と教師の良好な関係を築けるようにすることです。研修パッケージには、a) 子どもにやさしい学校のマニュアル、b) ファシリテーターガイド、c) 学校指導者用ガイドブック、d) 小学校教師向けガイドブックが含まれています。
また教育・青年・スポーツ省(MoEYS)は、神奈川県ユニセフ協会を含むドナーからのご支援によって開発された「学校における子どもの緊急連絡ホットライン」を普及させました。カンボジアの7,306の小学校から、合計45,148人の学校長と教師(女性26,590人)がテレグラム(SNS)を利用して参加しています。この緊急連絡ホットラインは、学校で暴力、虐待、搾取の危険にさらされている子どもたちを、子どもの保護の担当教師、女性と子どものためのコミューン委員会(CCWC)などを通じて、関連する保護サービス機関に紹介することができるとても重要なものです。

©UNICEF Cambodia_2023

シエムリアップの学校において、ポジティブ生徒指導法に関する

教員研修に参加する先生

©UNICEF Cambodia_2023

教員用ガイド

 

 活動2:ポジティブ子育て法の研修

女性省(MoWA)と州女性局(PDoWA)が管轄・実施するポジティブ子育て法は、計画通り達成されました。 6つの州(プノンペン、バッタンバン、シエムリアップ、プレア・シアヌーク、カンダル、ラタナキリ)で、合計1,561人の親と保護者(1,124人の女性)、11人の障害者(5人の女性)がポジティブ子育て法(ツールキットレベル12 )に参加し、12人の障害児(7人の女の子)を含む3,150人の子ども(1,252人の女の子)に恩恵を与えることができました。保護者がツールキット・レベル1の研修に積極的に参加したため、年間参加者1,248人という目標は達成されました。
また、ユニセフはポジティブ子育て法ツールキット・レベル 1 に、オンライン上での子どもの保護に関するセッションを導入しました。6 つの州の 95 人のコミュニティ調整員(84 人の女性)が、オンライン上での子どもの保護と研修教材の使用方法に関する研修を受けました。研修は、6 つのセッション(3 週間ごとに 1 セッション、計 18 週間)で構成され、「家族のコミュニケーション」「親の義務と子どもの役割と責任」「子どもの発達」「親と保護者のウェルビーイング」「子どもの保護」「ポジティブ生徒指導法」など、さまざまなトピックで構成されています。

©UNICEF Cambodia/2023/MoWA
ラタナキリ州のコミュニティ調整員を対象とした、オンライン上での子どもの保護に関するトレーナー研修のようす
©UNICEF Cambodia/2023/MoWA
バッタンバンでの保護者向け「親の役割と責任」についての会合のようす

成果のまとめ

以下の表は目標に対する報告期間中の実績を示したものです。
活動内容 受益者 目標値 2020 2021 2022 2023 合計
1 ポジティブ 生徒指導法 研修を受けた教師 1,500 0 600 1,067 729 2,396
恩恵を受ける子ども 50,000 0 20,000 35,556 19,637 75,193
2 ポジティブ 子育て法 研修を受けた保護者 2,200 1,248 1,248 1,550 1,561 5,607
恩恵を受ける子ども 6,500 2,674 2,110 3,100 3,150 11,034

使われた金額

活動内容 支出(US$)
ポジティブ生徒指導法研修の実施 201,000
ポジティブ子育て法研修の実施 234,494
プログラム可能な支出合計 435,494

課題

• 2023 年 7 月に国政選挙が実施され、女性省(MoWA)と教育・青年・スポーツ省(MoEYS)の両省庁で管理職と担当スタッフが交代した結果、学校でのポジティブ生徒指導法とポジティブ子育て法の実施が約 2 カ月(2023 年 6~7 月)遅れました。しかし、両プログラムの目標と期限を守るために活動が再スケジュールされたため、2023年の目標設定には影響しませんでした。
• コミュニティ調整員を対象とした、オンライン上での子どもの保護に関するトレーナー研修の実施中に行われた現地観察の結果、ユニセフはコミュニティ調整員がオンラインにおける子どもの性的搾取と虐待(OCSEA)に関する知識が非常に乏しいことを確認しました。このため、コミュニティ・レベルで保護者向けの研修を行う際に、オンライン上での子どもの保護に関する知識のギャップを埋めるために、コミュニティ調整員のための能力強化研修を追加する必要がありました。
• 社会規範や既存のジェンダー固定観念のために、父親や男性保護者の家事への参加が少なく、彼らのポジティブ子育て法への参加も限られています。

今後の計画

2024 年、ユニセフ・カンボジア事務所は、子どもたちを暴力と搾取から守るために、以下のことを通してカンボジア政府をさらに支援する予定です。
• 教育・青年・スポーツ省(MoEYS)が、ハイブリッド方式を用いて学校でのポジティブ生徒指導法プログラムの規模を拡大し、費用対効果の高い方法で支援を続けられるようにする。
• 女性省(MoWA)が NGO パートナーと協力して、ツールキット・レベル 1 へのオンライン上での子どもの保護の実施を含め、ポジティブ子育て法の規模拡大を継続するよう支援する。
• 男女平等の推進における男性の役割、特に仕事と私生活の両立における男性と父親の役割に焦点を当て、ポジティブ子育て法への参加を強化するよう女性省(MoWA)を支援する。

現地のストーリー I:学校におけるポジティブ生徒指導法プログラム
カンボジアにおけるポジティブ生徒指導法の役割と子どものエンパワーメント

事例:シエムリアップ州 アラン・ラインジー小学校

シエムリアップ市の第二環状道路沿いに位置するアラン・ラインジー小学校は、市の開発地域の一部であり、常に入学者数を増やしてきましたが、過去 5 年間のみで入学児童数が 2018/2019 年度の839 人(女子 370 人)から 2023 年度の 1310 人(女子 621 人)に急増しました。
この小学校には現在 34 人の教師がおり、うち 22 人が女性です。入学者の大幅な増加に対応するため、学校は二交代制で運営されています。学校の敷地は広く、よく整理され、レンガの壁、運動場、駐車場、手洗い場、大きな木の下の休憩所、庭、お祭りや重要な連絡事項の掲示など、適切に維持されています。各教室の外にはゴミ箱があり、中庭や教室は清潔に保たれています。最近、教師がポジティブ生徒指導法の研修を受けたため、教師と生徒の関係や学習環境は大幅に改善されました。
2019 年から同校はユニセフの支援を受けています。当初、ライフスキル科目は、学校によって採用された子ども中心の学習アプローチに焦点を当て、その後 2022 年から指導・学習法を改善するためにレゴ教材を提供しました。2023 年 2 月には教育・青年・スポーツ省(MoEYS)とユニセフが支援する全国拡大プログラムの一環として、34 人の教員と教員以外のスタッフ全員が、ポジティブ生徒指導法と効果的なクラス運営に関する研修を受けました。この研修は、費用対効果に優れた研修の一環として、研修中にハイブリッド型を導入した初めての試みでした。以下では、実施から約 1 年が経過したこのプログラムの成果を紹介します。
ポジティブ生徒指導法は、カンボジアの子どもに対する暴力調査(CVACS、2013 年)の結果を受けての提言に基づいて開発されました。この調査では、18 歳未満の子どもの少なくとも 2 人に 1 人が
何らかの身体的暴力を経験していることがわかりました。また、精神的暴力(4 人に 1 人)と性的暴
力(20 人に 1 人)の発生率も衝撃的なものでした。この研修の目的は、子どもに対する暴力の影響について教員や学校の第一人者を研修し、子どもたちと暴力的でなく、良好でオープンな関係を築き
ながら教室を管理するためのツールや代替方法を提供することでした。

©UNICEF Cambodia_2023_LENG THEAVY

アラン・レインジー小学校6年生のオーン・シーヴメイさんとタイ・ソクムーリーさん

現地のストーリー II:ポジティブ子育て法プログラム
常態化している子どもへの暴力に対する社会規範や行動を改善する

©UNICEF Cambodia_2023_Buthdy Sem

ボファさんと一緒にいられて喜ぶ子どもたち

事例:シエムリアップ州 ケオポール・コミューン ロカイヤ村

ケオポール・コミューン、ロカイヤ村にあるボファさんの家の門に近づくと、カエルの鳴き声と鳥のさえずりが聞こえてきました。ボファさんの家の庭は整理整頓され、彼女の座るベッドは快適な様子です。
35 歳のボファさんは 15 年前に結婚し、3 人の子ども(2 男 1 女)をもうけました。14 歳の男の子は 8 年生、8 歳の女の子は 2 年生、4 歳の男の子は幼稚園に通っています。ボファさんの夫は健康上の問題で、収入を得るための重労働ができません。彼女の夫は、地元の男性たちと頻繁に飲み会を開いています。ボファさんは、自分は両親の習慣を守り、子どもを教育するために両親が子どもを殴ることを許していたといいます。彼女は、過去に子どもが悪さをしたときやストレスが溜まったときに、叱ったり、叩いたり、殴ったりしたことがあると続けます。
村長は 2019 年にボファさんの家を訪れ、彼女と夫をポジティブ子育て法の研修に参加させました。ボファさんと彼女の夫はポジティブ子育て法のレベル 1 とレベル 2 の研修を受講しました。その後、彼女は 2022 年にピア・エデュケーターの役割を担い、女性と子どものためのコミューン委員会(CCWC)の委員長の協力を得て、村の合計 28 世帯に及ぶ 6 つのグループにポジティブ子育て法のアドバイスと子どもに対する暴力の悪影響に関するメッセージを伝えてきました。ただ、彼女の夫は漁業と稲作に従事しているため、すべての研修には参加していません。

ボファさんは、「レベル 1 とレベル 2 の 6 つのトピックすべてがとても魅力的で興味深く、すべてのトピックをしっかり学ぶことができました。研修のおかげで、体罰をしなくなり、子どもに対する態度や行動が変わりました。怒りをコントロールできるようになり、3 人の子どもたちや夫との関係もよくなり、調和がとれるようにました。」また、彼女は「両親の役割や義務、子どもの健康について理解し、育児のヒントや栄養のある食事を作り、子どもの教育を守ることができました」と付け加えます。

©UNICEF Cambodia_2023_Buthdy Sem

 小さな農場内で飼っている 200 匹のカエルに水をやるボファさん

ボファさんは、子どもに対する態度や行動を改め、ピア・エデュケーターやコミュニティのロールモデルとなるまで変わったにもかかわらず、他の村人たちに良い子育ての方法を教えようとすると、いくつかの困難に直面してしまいます。彼女によれば、当初、他の村の人たちは研修への参加受け入れてくれたものの、子どもたちを教育する手段として体罰をつかってしつけていました。また、彼女の生活環境と学歴が彼らのそれと比べて劣っていたため、彼女よりも年上の保護者や祖父母たちは彼女をピア・エデュケーターとして見ていませんでした。しかしその後、彼女はコミュニティ調整員の助けを借りて自信をつけることができ、子どもに対する暴力の影響、子どもの発達とウェルビーイング、怒りのコントロールについて話し、これらの保護者グループを説得しました。
女性と子どものためのコミューン委員会(CCWC)の委員長であるナイ・ガーさんによると、2019年以降、ケオポール・コミューンの 8 つの村で 170 の子育てグループと 48 の研修セッションが実施されました。貧困家庭、暴力の危険にさらされている家庭、すでに暴力を経験している家庭、児童保護施設に入っている子どものいる家庭、児童保護施設からの子どもの復帰中の家庭などが、子育てグループを選ぶ基準となっています。

ユニセフのパートナー団体である地元 NGO の ICS-SP は、女性と子どものためのコミューン委員会(CCWC)委員長と副委員長をコミュニティ調整員に選出しました。彼らはトレーナー研修にも参加しています。ナイ・ガーさんによると、ポジティブ子育て法は彼女のコミュニティにとって非常に重要だといいます。「村人たちは、配偶者への虐待、子どもへの虐待、アルコール摂取量を減らしています。」

©UNICEF Cambodia_2023_Buthdy Sem

女性と子どものためのコミューン委員会(CCWC)のコミュニティ調整員が、

ボファさんとその子どもたちをフォローアップのために訪問

ナイ・ガーさんは、「ICS-SP からの支援が打ち切られたとしても、私はポジティブ子育て法を継続していきます。これは社会サービス投資ガイドラインに沿ったもので、コミューン行政は 2023 年に4 つの村でポジティブ子育て法を普及させるために 80 万リエルの予算を割り当てています。」といいます。彼女のコミューンでは、1,200 人近くの親が研修やピア・エデュケーションに参加しました。
シエムリアップ州でのプログラム実施における主な課題は、わずか約 2%と男性の参加が少ないことです。こうした格差に対処するためには、今後、女性省(MoWA)に情報を提供し、ジェンダーの視点も含めたポジティブ子育て法の評価が必要です。

©UNICEF Cambodia_2023_Buthdy Sem

女性と子どものためのコミューン委員会(CCWC)のコミュニティ調整員が、

ボファさんとその子どもたちをフォローアップのために訪問

 

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